名古屋の探偵ごっこも本格的になってきた感じだ。
わたしは持ってきた家庭用のビデオカメラを用意し、スイッチを入れる。名古屋の探偵経験者からの助言通り、黒いバンダナで巻いて画面を包むように結んだ。
カメラの位置は、見にくいけれど、小さい方の確認画面を覗きこむ。
名古屋探偵の旦那さまの車のダッシュボードには、滑り止めのシートが貼り付けてある。
名古屋の探偵ごっこを始めたときに、旦那さまが準備したもの。色が黒だから、それほど目立たないけれど、見た目にあまりおしゃれなものとも言えないのだけれど。

画面の中には、友人の旦那さまと車が、ちょうど収まっている。
車に戻った旦那さまは、エンジンだけかけたようで、すぐに車外に出てきて。タバコを吸いだした。
車の横で携帯片手にまだ会話は続いている。
楽しげに会話をしているのが、その表情からも伺える。

しばらくして、会話が終わったのか、ポケットに携帯を仕舞い、タバコを灰皿に捨てる。
車に乗り込んだ旦那さまは、ある方向を気にしているように見えた。
その方向を、おのずとわたしたち名古屋探偵も気にする。
時間は５時４５分。まだまだ周囲は暗い。

一人の女性が、名古屋探偵の視界に入る。
ブーツを履いて、コートを着ているけれど、おしゃれをしたその格好は、どこか寒そうで違和感を覚え、名古屋探偵は余計視線をはずせないでいた。
その女性は、コンビニに入らず、まっすぐ友人の旦那さまの車へ。慣れた様子で車に乗り込む。
わたしたち名古屋の探偵もエンジンをかけ、緊張する。

２人は、エンジンのかかった車の中で、雑誌をみながら会話しているようで、まだ出発する気配はない。
緊張したわたしと旦那さまに、会話は全くなく、自分の鼓動が聞こえてしまいそうな感じだ。
以前、旦那さまから頼まれた後輩の調査で、カメラを設定していることを忘れ、証拠現場を押さえたとき、興奮して、思わず、対象者のことを話題にして、話しちゃってたんです。
あとで、カメラを確認したとき、その会話の内容を恥ずかしく思いながら、それを見せるか見せないかで、ずいぶんと議論したんですねー。
結局は、その後輩に本当のことを話すと、気にしないので見せてほしい、と。
そりゃそうですよね。現場を押さえたって、言われても、やはり自分の目で確認したいものだと思います。

それ以来、カメラの電源を入れた瞬間から、妙な緊張感がわたしたち名古屋探偵の間に流れるのです。
でも、この待っている間って、やたらと長いんです。
かと言って、カメラをとめて、会話している間に、証拠の瞬間がきてしまうのが怖く、なかなか電源も切ることができません。